鉄鋼産業という幻想。

上司に連れられて、東京大手町の鉄鋼会館の5階会議室で打ち合わせをしたのは、もうずいぶんと昔のことになる。

本四連絡橋の工事が始まり、関空の建設が計画、着工されようとしていた頃だった。

窓からは皇居の辺りが見渡せた。田舎だしの私には驚くような景色だった。

関空は埋め立て工事となったが、巨大な浮舟を連ねて係留する案も最後まで残ったと聞く。

関空の海底は軟弱地盤が厚く、地盤改良ができない(埋め立てによる圧密はあるだろうが)、南海地震もある。

永久に続く地盤沈下はどうするのか、とのグチとも聞こえる話を聞いていた。(実際、埋め立て工事中は原始的な方法で、大きなブロックを吊り上げては落とす、という突き固めを何度も何度も繰り返していた)。タコによる突き固めと一緒。

しかも海が荒れて大波が襲ってくる。高価な旅客機に波しぶきを被せるわけにはいかないだろう。という議題が続いた。

大波を抑える、ための浮消波堤の提案である。

関電や生研、ゼネコンがいろんなタイプ、工法を競っていた。

結論から言うと、浮消波堤は設置されなかった。

次に造成されることになる神戸空港にも、浮舟式や浮消波堤、浮桟橋はない。

鉄鋼メーカーの敗退である。

あの日、生研でも日立造船などを交えた実験設備を見ながら話し合った。学生たちを見ながら、なんと高級な遊びかと感じた。

私は上司から「君は学生気分が抜けないでいる。現実を見るようにしなさい」と言われていた。60歳になった今もあまり変わらない。

この日、エライ人からもらった名刺は不思議なことにどこにもない。記憶のかなた。あれは神が私に一瞬だけ見せた幻だった。

今回、洋上風力発電が全国の海岸に数千基も建設されるという記事を見て、ふと遠い昔の鉄鋼会館の打ち合わせを思い出していた。

鉄をたくさん使ってもらいたいのだ。

生研の先生方もゾーニングなどと言って大層な権力を振るっている。

ゼネコンの活躍がないのが気になるところよ。

上司に連れられて、お初天神の小料理屋でよく遊んだ。

ある日、同僚と協力会社の社長との席で、料理人から

「この料理、隣の部屋で並べている途中で客が席を立ってしまって。もったいないのでどうですか? 四万十川のアユですが」

と皿を見せようとした。

上司の顔をチラッと見たのか

「失礼しました。すぐに下げます」

といって料理人は下がった。

その頃だったか、しばらくしてからか、吉兆でも同じことがあったらしくて、料理の使いまわしが社会問題となって、笑い話にされていた。

バブルの前夜、それほどみなさん忙しく、小料理屋での打ち合わせを一晩に3つも4つも掛け持ちしていたらしい。

帰る際に、上司が「あれは鹿島と清水の連中だ。何を話しているんやろ」と笑っていた。

誰も清算して店を出る者はいない。たくさんのお金のやり取りがあったはずである。

その後、私は関空エネセン、ジェット燃料のパイプラインなどの図面書きを担当した。よっぽど因縁があったようだ。

もうすぐ、というか、いつか南海地震が来る。関空は一瞬にして崩壊するんだろうか。できるだけ見たくはない。

鉄を使う工事は、まず橋梁工事だろうが、最近はコンクリート製の古代ローマ遺跡のようなデザインが多くなった。

鋼橋は自由な線形、工期の短縮、いい事づくめのように思うが、現実はコンクリート橋と折半か。

低周波音被害の心配があるんだろう。意外なところで行政もメーカーも気を使っている。

昭和50年代の西名阪自動車道 香芝高架橋の低周波公害訴訟は、莫大な費用と設計変更が行われることになった。汐見先生と小林先生が活躍した。

以来、被害者対策は万全を期することになった。

学者、弁護士、医師、地方自治体、地域住民、今回の風力では環境運動家、そして被害者の否定、被害を否定する報告書、等々、ここまでやるか、という弾圧を見た。

洋上風力ではたくさんの鉄を使う。腐食にも耐える特殊鋼が開発されているとも聞く。一基が10億円とも20億円とも聞く。

水深が50mとして、直径が1メートルの鉄パイプで4本足のトラス(構台)を組む、肉厚10cm

さらに200mの高さのタワーを建てる。直径5m、肉厚20㎝。

鉄の重さを積算すれば値段が出てくる。

作業船とサルベージ費用、海上での作業なので陸上にはない困難がある。

台風銀座の日本列島で、直径164mのブレードは、どのような挙動を見せるのか。

漁業はどうするのか。

低周波音被害はどうするのか。

今も行政は地球温暖化と叫んでいる。

あの戦争で「お国のため」と言うより、更に上手を行くではないか。

「地球環境を守る」というのだ。

ウルトラマン、ウルトラセブンの世界ではないか。

あの日、生研で、頭の良さそうな学生たちが嬉々として水理実験に取り組んでいた。たぶんたくさんの修士論文、博士論文になったはずである。たくさんの研究費に恵まれながら製品としては、実現はしなかった。波浪の圧力などの計算技術は進化しただろう。

しかし東北の津波でも分かったように、津波が来れば波浪の計算は通じない。一気に破壊されてしまう。

バネモデルとして計算されるカテナリー係留も、一発でチョン切れる。後始末が大変よ。

今、大規模な公共工事はそれほどない。リニア新幹線くらいのものか。これも賛否両論だ、どうなるんだろう。私は無理だと考えている。

そこで手っ取り早く鉄を大量に使う工事が求められた。

洋上風力発電である。

しかし陸上での風力発電は散々な結果を開陳することになった。

私は低周波音被害を訴えているが、発電効率の悪さ、採算の悪さ、使い勝手の悪さ、誰の目にも明らかだろう。ウソはもう止めよう。

東京タワーのように「あれはオラたちが作ったダ」と今でも自慢されるようなものでは決してない。

それも莫大な税金として別途集金して、自由に使いまくる、という野蛮に、人々はそろそろ気が付いて「何のために」と考え始めている。

被害の方が明らかに大である。何か良いことがあったか?

風力発電を工事したゼネコンと話したが、一様に口が重い。私は土木科を出てゼネコンにいたので、工事の安っぽさが目についてしょうがない。たぶん工事費がないのだ。仮設工事と言ってよいレベルよ。

火力発電や原発との落差は見た通りよ。仮設なのだ。ハリボテよ。

それを海上に建設するとどうなるか。陸上風力が一基3億円、4億円という。

再エネ賦課金が今、電気代の12%だから、これがすごい金額になるだろう。使いもしないクズ電気に、なんで毎年5兆円の税金を費やしているのか。ヘンに思う人はいるやろ。

日本の社会あっての公共工事だからゼネコンも沈黙するしかない。

鉄鋼メーカーだけが、東京スカイツリーのような鉄のタワーを全国の海岸に建てたいと考えているんだろうか。

地球環境を守るんだ、というスローガンのわりには真逆の工事になっている。

たしかに製鉄業は必要な産業だろう。しかし、それって100%輸入で成り立っている業界だ。日本が、鉄鉱石に恵まれているとか、石炭があるとか、立地が適しているというものではない。あるのは技術屋さんと、金だけだろう。

無理して戦艦大和みたいなものを作ったところで、被害にあうのは国民ばかりよ。

現実を見ようではないか。

電気が足りないのか? リニア新幹線は何なんや。

どうしても風力発電が必要なのか?

経済性は関係ないのか。ウソの上塗りは止めよう。

低周波音被害に苦しむ人がたくさんいることは、どんなに否定しても無理だろう。

なぜ風力発電が必要なのか。正直に明かす時期に来ている。

日本人は本当にアホで、未だに戦艦大和を自慢している。

何の役にも立たなかったのに、使い方も知らなかったのに、最後は浜に乗り上げて、陸上要塞としか考えが及ばなかったのに。

エバラポンプでは、今も戦艦大和の排水ポンプはエバラ社製ですと自慢しているんだろうか。

つまり巨大な鉄の塊を作って失敗して、何の反省も、何の後悔もしていない。これが日本人の誇りか。

爆弾を抱いて自爆攻撃することが名誉なことなのか。英霊になることなのか。

少しは「何のために」という疑問を持とうではないか。

単にダマされているんやで。

風力被害では、たくさんの被害者が苦しみながら亡くなっている。誰一人、「風力発電を止めろ」という人はいない。「ヘン」でしょ。

海外では普通に「Stop wind turbine!」と言って抗議してるで。

由良町の風力発電を止めてくれ。

被害者たちを笑いものにして殺した事実は全国に通じたと思っている。

鉄鋼メーカーは、需要に応じて鉄を生産すればよいだろう。地球温暖化というイデオロギーに乗って、大量に風車を作ったとしても、それは戦艦大和にも届かぬ、稚拙な金儲けの妄想でしかないで。