風力発電の低周波発生メカニズム

【土木学会のための基礎知識として】

もう一つ教えてください。

風力発電から発する低周波には、様々な波長の音波があります。私が最初に気づいたのは、やはり香芝高架橋の低周波公害でした。つまり中空ホローの鋼桁がトラックの走行により振動して、それが空気振動となり、周辺の住民に低周波被害を及ぼした。

それから考えてみると、鉄パイプのタワーが、三枚羽根ブレードの回転により荷重を受けて振動する。鉄パイプ(直径4m)の振動が、空気振動となり、周辺の住民に低周波被害を引き起こした。

もちろん長さ40m、直径にして80mのブレードも振動しています。この影響もあることでしょう。あるいはブレードの先端はミツバチの羽のように小刻みに見えないほど早く振動しています。

しかし、ここで気を付けなければならないのは、ブレードが空気をかく乱して、あるいはカルマン渦が出来るから、その空気変動が低周波を発生させるのだという誤解、錯覚と混同してしまっては違う方向になると感じています。

小林先生は風力発電の低周波発生メカニズムをどうお考えですか?

汐見先生は、風車が止まると低周波は発生しないと断言していました。私と対立したポイントです。自由振動しているから、風車は止まっていても有害な低周波を発生しています。

「風車が止まった時のしんどさは格別や」という被害者たちの証言は真実です。私も体験しています。この辺、やはりブレードのことで、目を奪われるのかもしれません。

北海道で聞かれると悪いので、ぜひ教えてください。橋梁は、一端はピン固定、他端はローラーで自由です。構造的にもよく似ています。

【小林先生の答】

私が考えいることは、
1)風力発電で発生している低周波空気振動の原因は、第1義的にはブレードの振動であろう。

あれだけ大きいブレードは、それほど剛性の高い構造に作ることはできないので(作ることはもちろんできるけれど、重くなりすぎるし、材料費も高くなりすぎるから)、かなりやわの構造で、ブレードがタワーの影を通り過ぎるたびに(風が弱くなるので)自由振動が誘起される。

3枚ばねの場合は1周当たり3回です。それが基本周波数でその2倍、3倍の高調波の誘起されるだろう(この種の倍震動が出ているという記事は多い)。これはカルマン渦とは関係なく、ブレードの自由振動です!

だが2次的には、風車がまわっていないときも低周波空気振動は出ている。その原因は2の(1)ブレードは上記のようにやわな構造物なので、上空の風が強いところにさらされるとブレードは風に押されて自由振動をするだろう。

そこから風車が回転中と同周波数の低周波空気振動が発生するだろう。これも自由振動です!

さらに2の(2)として、風車が停まっている間にも、ブレードおよびタワーは風を受けて低周波空気振動を起こしうるだろう。その原因はカルマン渦です(カルマン渦とは、洪水時に橋脚をよけて流れる河川で観察できるような、橋脚の左右にかわりばんこにできる渦です。

ブレードとタワーに出来るカルマン渦は、それらのサイズが違うから周波数も異なるでしょう。)

あとは物理と関係のない、被害者の感覚も問題でしょう。風車が動き出す時、停まるとき、運転状況の変化するときに苦しいという話は、あなた方からも、オーストラリアの被害者の報告にもあります。

結論的に、ブレードの自由振動が第1、カルマン渦が第2です。どちらか片方というのは不完全な理解だと思います。

小林